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平成30年度相続法改正の概要


札幌の司法書士平成事務所では、札幌・札幌近郊(小樽市、恵庭市、北広島市、千歳市など)を中心として、不動産や預貯金などの各種相続手続を代行しております。そんな相続を業務の主軸とする当事務所には、相続について数々のご相談をいただきますが、最近になってよく聞かれるのが平成30年度の改正相続法についてです。


平成30年7月6日、改正相続法(「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」「法務局における遺言書の保管等に関する法律」)が成立しました。そして令和元年7月1日に、その一部が施行されています。

この度の法改正では新制度が複数創設され、既存制度の見直しが図られました。その結果、相続法分野の条文数も増加しています。

ここでは、改正に至った経緯と主な改正点の内容について解説していきます。札幌の方だけでなく、札幌以外の方もぜひ参考にしてください。


今回の改正の経緯


今回の改正については、「高齢化社会の進展や家族の在り方に関する国民意識の変化等の社会情勢に鑑み、配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から、相続に関する規律を見直す必要」が指摘されたことから、平成27年4月より法制審議会が審議を重ねてきました。その後、平成30年7月6日、改正相続法が国会で成立しました。

改正された理由としては、改正前の相続法が制定された当時と現代では社会の在り方が大きく変わっており、従来の相続法では対応できないことが多々あったためです。たしかにこれまで札幌で相続の相談を受けていても、民法の定めが現状の家族の在り方に合っていないのではないかと思うことが多々ありました。このような「現代の家族の姿に合わせる改正」は、札幌の方をはじめ、全国の方にとって非常に重要な改正だといえます。


配偶者相続人の「居住権」を保護する新制度


改正相続法では、配偶者相続人の居住権を保護する制度が創設されるに至りました。その背景は次の通りです。

我が国は高齢社会が非常に進展して、そのため相続開始の時点で配偶者相続人は既に高齢であることから、保護する必要性が高いといえます。札幌市中央区にある当事務所にいらっしゃる被相続人の配偶者だというご相談者(配偶者相続人)がすでに60代や70代であることは珍しくありません。

その一方で、被相続人の子供は既に独立しており、保護の必要性は低いといえるでしょう。

このような前提があるだけでなく、遺産の分割で配偶者相続人が居住住宅(家)を相続すると、それだけで配偶者相続人の相続分(たとえば2分の1)を超えてしまい、現金などを確保(相続)できないおそれがありました。

そこで、一定の要件を満たす場合には、「被相続人の遺産である『家』に、配偶者相続人が無償で住み続けることができる」という権利を与えることにしたのです。
これが、配偶者居住権(第1028条~1036条)です。

要件としては次の1及び2または1及び3を充足することが必要です。

1:相続開始時にその建物に住んでいる
2:遺産分割で配偶者居住権を与えるとした場合
3:配偶者居住権が遺贈された場合

配偶者居住権は、いわば配偶者相続人の長期的な保護です。

また、改正相続法は配偶者相続人の居住権を短期的に保護する制度も創設しています。遺産分割などで家が他の相続人のものになった場合には、これまで住んでいた配偶者相続人が引っ越しの準備などをするために、配偶者相続人は一定期間無償でその建物に住み続けることができます。これを配偶者短期居住権(第1037条~1041条)といいます。


遺産分割の場面でも配偶者を保護することに


遺産分割の場面においても、配偶者相続人がこれまで以上に保護されることになりました。

今までは、被相続人が死亡前に相続財産の一部を配偶者相続人に贈与した場合には、配偶者相続人は、その分だけ遺産の分割の際に得られる財産が少なくなっていました(第903条1項参照)。札幌で相続の相談を受けている当事務所ですが、よく覚えている事例として、配偶者相続人の方が、「生前に財産をもらっていたため、遺産分割ではあまり財産をもらえなかった」と嘆いていた事例がありました。札幌だけでなく、このような事例は多くあるでしょう。

しかし、婚姻期間が20年間以上となる夫婦において、一方の配偶者がもう一方の配偶者に対して家、その敷地の全部又は一部を贈与又は遺贈した場合には、被相続人が当該配偶者に対して、持ち戻しを免除する意思表示をしたと推定されます(同条4項)。これにより、残された配偶者の居住場所を、配偶者居住権以上に強力に保護することができるのです。


遺産の一部の仮払いが認められることに


改正相続法は、配偶者を保護する制度を創設しただけではありません。他にも、現在の問題を解決するべく、諸々の改正がなされました。たとえば遺産である預貯金の一部仮払いです。

最高裁の判断により、被相続人の預貯金債権は遺産分割の対象とされたことから、遺産分割前に、相続人が勝手に引き出すことはできません(たとえ自己の相続人に相当する額の引き出しであってもダメです)。しかし、これでは葬儀費用などの支払いにも窮する方がおり、非常に不都合でした。札幌の金融機関でも、これまでは遺産分割前は、たとえ法定相続分であっても預貯金の引き出しはできませんでした。

(1)このような事態を解消するために、家庭裁判所に遺産分割の審判又は調停の申し立てがあった場合には、預貯金を使う必要が認められ、かつ他の共同相続人を害するような事情がないと認められれば、家庭裁判所が申立人や相手方の申し立てにより、遺産の中の預貯金債権の全部又は一部を仮に取得させることができるようになりました(改正家事事件手続法第200条3項)。

(2)また、申立てをしていなくても預貯金債権の一部を単独で行使できるようになりました。その限度としては、遺産中の預貯金債権額の3分の1に、当該法定相続人の法定相続分を乗じた額となっています(第909条の2)。

遺産である預貯金を勝手に使っていいかどうかは札幌で相続手続の相談を受けていてもよく聞かれることです。今後はこのような取り扱いになることを説明できるようになったことは、札幌で相続手続をサポートする当事務所にとっても朗報でした。

遺産の一部分割が明文でも認められることに


改正相続では、遺産の一部についての遺産分割協議が条文上でも明確に認められることになりました。

共同相続人は、いつでも協議によって遺産の分割ができますが、それは、これまでも遺産の一部でも全部でも良いことになっていました(第907条参照)。遺産分割協議書の作成を依頼されることが多い札幌の当事務所ですが、たしかに昔から、遺産の一部しか協議書には載せないことは珍しくありませんでした。たとえば相続登記などのお手伝いをする際にも、ご相続人には不動産だけを対象として遺産の分割協議をしていただくことがありますが、これが遺産の一部分割に該当します。改正相続法では、このような一部の分割でもよいということが、条文から明確になったといえます。

ただし、被相続人が遺言で分割を禁止(第908条)しているような場合には、これができないので注意が必要です。


遺産分割前に、遺産の一部が処分された場合の遺産の範囲


遺産分割よりも前に遺産の一部が処分(たとえば預貯金であれば使い込み)されることは多々あります。札幌で相続に関するお問合せをいただく際も、そのようなご相談がございます(なお、このようなご相談があった場合、当事務所では紛争案件については弁護士事務所へ相談いただくようお願いしております)。

改正相続法では、遺産分割の前に遺産の一部が第三者に売却されたり贈与されたりした場合、共同相続人の全員が同意すれば、その処分された財産も遺産に含むとして遺産分割をすることが可能です(第906条の2)。この時の同意ですが、遺産を処分した相続人の同意は不要です(同条2項)。


遺言制度についての見直し


改正法では遺言についても大きく改正されました。

(1)自筆証書遺言の方式の緩和
これまでは財産の目録も含めて全文を自筆する(自分で書く)必要がありました。しかし今回の改正により、相続財産の目録については自筆する必要はなくなり、毎葉に署名押印をすれば足りるようになりました(第968条2項、3項)。結果、一部パソコン書きの自筆証書遺言が解禁されたといえます。札幌で遺言書の作成をお手伝いすることもありますが、なかには手の不自由な方もいらっしゃいますので、このような改正は非常に助かります。

(2)自筆証書遺言書の保管制度の創設
遺言者は、法務局に申請することによって、無封の自筆証書遺言の保管をしてもらうことが可能となりました(法務局における遺言書の保管等に関する法律)。これで自筆証書遺言の紛失について気にする必要はなくなりました。札幌の当事務所では、遺言書といえばこれまで公正証書の形式を推奨していましたが、この新制度によって、自筆証書の遺言書も選択できる場面が増えたといえます。

(3)遺贈の担保責任
遺言によって遺贈がなされた時には、遺贈義務者は相続が開始した時点の状態で対象物を引き渡し、又は権利の移転をする義務を負います(改正相続法998条)。

(4)遺言執行者の権限
遺言執行者は遺言の執行に必要な広い権限を有しますが、この権限の内容が以前に比べて明確になりました(第1012条参照)。たとえば、遺贈がある場合は遺言執行者だけがその履行義務を負います(同条2項)。また、遺言執行者は、遺産の一部を特定の相続人に承継させるという遺言がある場合には、その相続人が他人に対し権限を主張するための要件を備えるために必要な行為をすることができます。

このように遺言執行者の仕事内容は多岐に渡るため、その仕事を第三者に行わせることも可能です(第1016条1項)。この場合には、遺言執行者がその第三者がやったことについても責任を負うことになります。


遺留分制度の見直し


被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人について、最低限の遺産取得を認める制度が遺留分制度ですが、いくつかの重要な改正がありました。

(1)遺留分侵害は金銭のみで解決する
改正前は、「遺留分減殺請求」として侵害の原因となっている財産を返還させる対応をしていました。結果、遺留分を主張する者と主張される者が遺産を共有する事態となっていました。改正法では、遺留分額を計算し、侵害されている分の「金銭」を請求することになりました(第1046条1項)。

(2)遺留分の計算方法
遺留分を計算するには、まず基礎となる財産の価額を確定させる必要があります。その際には、相続人に対する過去10年間の贈与の価額、相続人以外の者に対する過去1年の贈与の価額を算入することになりました(第1044条)。その他負担付き贈与などについても、算入時の計算が第1045条により規律されています。


相続人以外の者への配慮


相続人ではないものの相続人の家族などで、被相続人の介護などを無償で行う方がいます。その結果、被相続人の遺産が減らない貢献をした、といえる場合があるでしょう。

従来の相続法ではその者を直接保護することはできませんでしたが、改正により、介護等をした本人が、相続に対して自らの働きに応じた特別寄与料を請求できるようになりました(第1050条)。

相続の効力についての改正


他にも改正点はあります。

(1)相続によって所有権など権利を獲得した場合には、登記などの対抗要件を備えなければ、自分の法定相続分以上の部分を第三者に主張することができません。札幌で相続登記のお手伝いをする者としては重要な改正です。

(2)遺言によって法定相続分とは異なる相続分の指定がなされた場合でも、被相続人の債権者は共同相続人に対し、その相続分の内訳によらず法定相続分に基づいて権利を主張することができます。従来の取り扱いが明文で定められることになりました。

(3)遺言執行者がいるにも関わらず、相続人が勝手に遺産を売却などした場合、その行為は無効となります。ただし、何も知らずに相続人と取引をした第三者には無効だとは主張できません(第1013条2項)。


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