相続分を指定すると、相続はどう変わる?
札幌・札幌近郊を中心として相続手続に対応していますが、被相続人に遺言があり、そのなかで相続分の指定がされていることがありました。相続分を指定すると、当該指定相続分に基づいて各相続人に権利が相続されます。また、各相続人は、個々の相続財産につき、指定相続分の割合に応じた持分権を有することになります。
このように、相続の開始に伴って法定相続分に基づいて行われる行為が、指定相続分に基づいて処理されることになるのです。
しかし、問題なのは、「相続人以外の第三者が出てきたときに、指定相続分の効力がどのように扱われるか」です。
今回は、そんな相続分の指定に伴う相続上の効果について場面に分けて解説します。
指定相続分と相続登記の関係
まず、指定相続分による不動産相続の場合には、指定相続分に基づいて各相続人が持分を取得します。しかし、相続人以外からは法定相続分に基づいて相続したようにみえることから、指定相続分に基づく権利取得を主張するためには、相続登記を済ませる必要があるのでしょうか。
具体的には、札幌に不動産を持つ札幌市中央区の甲が遺言を残しており、相続人A・B・Cの相続分を指定していました。指定相続分が法定相続分より少ない相続人Aが、法定相続分による遺産不動産の登記を利用し、法定相続分の割合で相続登記を済ませ、その持分を第三者Zに売ってしまった場合、共同相続人たるBCは、登記なくして自己の指定相続分をZに対し主張できるのでしょうか。
最判平成5年7月19日(家月46巻5号23頁)は、次のように判断しました。
Aが法定相続分に基づいてした登記のうち、指定相続分を超える部分についてAは無権限です。そして無権利の登記には、これを信用したからといって保護を与えるものではないため、ZはAの指定相続分の持分を取得するにとどまり、BCは登記なく指定相続分についてZに主張できると判示しました。
しかし、平成30年度の改正相続法により、「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない」との定めが設けられました(民法899条の2第1項)。したがって、今後BCがZに法定相続分を超えた部分の権利を主張するためには、登記が必要となります。
相続分の指定と相続債権
債権を相続する場合において、まず可分な金銭債権について考えると、判例(最判昭和29年4月8日民集8巻4号819頁)は、法律上当然に「相続分」にしたがって分割され、各相続人に帰属すると判断しています。そして、ここでの「相続分」とは、指定相続分が含まれると解されます。このように考えても、債務者が二重払いの危険性から保護する制度が用意されており、またこれまでの裁判例においても、共同相続人間の内部関係において、指定相続分による金銭債権の帰属が認められているためです。たとえば札幌の甲が900万円の金銭債権を有しているおり、相続人がA・B・Cの三名の子供である場合に、遺言で「Aが2分の1、BとCがそれぞれ4分の1」と定めてもよいのです。
相続分の指定と相続債務
学説上では、共同相続人間では当然に指定の効果が生じるものの、債権者との関係においては、債権者が指定を承認しない限り、指定相続分による債務分割を主張できないという考えが通説です。これは、債権者からみると、指定相続分による債務分割は不測の損害を被るおそれがあること、法定相続分というある程度予測可能な割合による分割にすることで、取引の安全を保護すべきであるとの考えが根拠にあります。
そして判例(最判平成21年3月24日民集63巻3号427頁)は、以下のような判断をしました。
まず、一人の相続人に対し財産をすべて相続させる旨の遺言がある場合には、相続債務も含めて相続させる旨の意思表示であると解されます。
これを前提とし、共同相続人間においては、指定相続分の割合によってすべての相続債務が当該相続人に帰属するとしました。
その一方で、債権者との関係については、各相続人が法定相続分に基づいた履行の請求をされた場合には、これに応じなくてはならないと判断しました。その理由として、債権者が関与しない形での相続分の指定であることを挙げています。
ただし、債権者が指定の効力を承認し、その指定相続分に応じた債務の履行を求めること自体は否定しませんでした。
上記の判例の考え方は、平成30年度の改正相続法により、明文化されました。次のように規定されるにいたったのです。
民法第902条の2
被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。
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